夏の日に街を行く

 5日の夜、仕事をバタバタと片付けて新幹線と在来線を乗り継ぎ、松江で一泊した。明朝、松江から1時間ほどかけて西へ向かい、宍道で乗り換えて木次駅で映画を見た。終戦間近で満州に渡った愛知の村の人たちと、戦後中国残留孤児の捜索に尽力した人物を描いた話だった。1時間に一本もない帰りの電車にぎりぎり間に合うか気になりながら、結局間に合わないことがわかったので終演前に次の電車に乗ることに決めて、会場を後にして昼食をとった。食堂のカウンターで隣に座っていたおじいさんといろいろ話したが、焼酎で酔っていたのと(同じ中国地方でそれほど違いはないはずだが)言葉の違いのせいか、内容が分からないことも多かった。時間まで、食堂のとなりのショッピングセンターの本屋で電車を待った。帰り、車窓から「宍道湖ボウル」というボーリング場の看板が目に入り、行きに日本海だと思っていた景色が湖だったのだと分かった。松江から岡山まで2時間以上かかり、岡山から新幹線で東京へ向かい、都内の妹夫婦宅に着いたのは夜10時頃だった。
 翌朝、タクシーに乗って3人でお寺の納骨堂へお参りに行った。東京に住んでいた時にはビル群など何とも思わなかったが、昼間の街中の空と車道から見える景色は新鮮で、まるで観光客のように外を眺め、時々写真を撮った。帰りのバスでカメラを忘れたのに気付き、自分一人お寺に戻っている間に妹にタクシー会社に確認してもらった。タクシーに忘れていたのが分かったが、乗っていた車はあちこち動き回っていて受け取るのに手間も費用もかかるため、翌日タクシー会社へ受け取りに行くことにした。そんなことがあって少し遅くなった昼食は、商店街の洋食屋でとった。麦酒を飲んだ義弟は自宅に戻り、残った二人で姉のプレゼントを買いに新宿へ行った。
 荒川区に住んでいた頃はもう新宿へ行くこともほとんどなくなっていて、南口はずいぶん長い間工事中で大通りに面して長いフェンスが立っていたという印象しかなかったが、話に聞いていたバスターミナルが完成して新しいルミネも出来て、一帯の様子は様変わりしていた。当たり前に行き来していた場所をそんな風に観光客のように眺めながら、妹が仕事で世話になったというので閉店する紀伊国屋書店に行った。上京後の最初の3年くらいの間よく行っていた本屋で、別れの挨拶を交わす店員と客の様子を見ながら、街をあてもなくうろついていた学生の頃を少し思い出していた。
 すっかりきれいになった南口の高架をくぐってFlagsに行き、妹は服を見に、自分はタワーレコードへ行くので別れた。フロア構成が変わってから新宿店に行くことはなくなっていたが、久しぶりの新宿店は他の都内の店舗とかわらず接客が朗らかだった。待ち合わせの江古田に行くのに時間があれば新江古田から歩いて行こうと考えていたが、目当てのものが店頭になかったので店員に出してもらうのに時間がかかり、地下の移動と新江古田から江古田駅までの距離を考えて山手線~西武線で行くことにした。
 東京を離れてほんの数か月ぶりで、暮らしていた時でも江古田まで頻繁に行くことはなかったのだから懐かしさを憶えるというと大げさだが、同じように特別に久しぶりという訳ではない友人たちと会うのは時間に関係なく特別な感じだった。おしどりで2時間ほど飲み食いし、その後北口のセイフー跡地を確認してシャノアールへ行き、また飲み食いして22時に店を出た。友人たちと順番に別れてまた妹夫婦の家に戻った。夫婦はオリンピックとカープの結果を報じるニュースのことで喧嘩をしていた。最近はそういうことが多いのだと言うので少し心配になるが、お互いに本当に話したいことが話せると良いのではないかと思いながら、夫婦間のことなので口出しはしないでおいた。
 休みの最終日の今日、タクシー会社にデジカメを取りに行った。在京中はまったく縁のなかった目黒の街は落ち着いた住宅街だった。帰り、どうするか考えながら地下鉄を乗り継いで馴染みの上野の雑貨屋に行って帽子とハンカチを買い、山手線で東京に向かって切符と駅弁を買って新幹線に乗った。帰り道はやり切れない。しかし段々と今暮らしている場所に近付きながら、名古屋の次が京都と知らせる車内放送に一瞬間違いかと勘違いしながら西へ向かっているうちに現実を受け入れ、やることを整理し、明日を段々と迎える準備をしているような心持だった。
 帰りの電車はさらに街を離れて山の中を走り、何もない景色がやるせなく、しかし着いたら降りて家に帰る。駅舎を降りる時に忘れものに気付いて改札の駅員に尋ねたが、当駅どまりの車両はもう回送で移動したあとだった。帰り道、こんなに忘れものが多いのはどうかしていると、自分の齢のせいかと考えながらやや早足で歩き、家路についた。こうして終えた短い休日は、たったの三日間だったが自分にとっては夏休みだったのだろう。

160806島根の山中を走るJR木次線のトロッコ列車
DSC_0490新宿駅南口の様子

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です