家で晩飯を作る

 今日は休日だった。頼んでいたCDを午前午後の二度に渡って受け取り、夕方から数時間寝て、ほとんど眠って過ごした一日だった。今日届いたものと、9月末に新宿と京都で買って置きっ放しになっていたCD(未だにフィジカルで購入する日々)を合わせるとまとまった枚数になり、そのままにできないので整理して棚に収めた。
 午後の寝起きのぼんやりした感じで冷蔵庫からスーパーの弁当を出して食べ、バートヤンシュの初期作を流し、夏からずっと魔窟のようにたまっている洗濯物を今日は片付けようかと思いはしたものの、遅すぎる午睡が長くなってしまい、それも叶わなかった。研修で行った大阪で買った力士最中の最後の一つを食べ、にわかに晩飯を食べたくなり、2ヵ月振りくらいで豚肉の野菜炒め(もやし)を作って食べた。良くも悪くもかわらない味だ。10年以上、こんなのばかり作って食べてきた。夏はやたらと忙しさに追われる気分でスーパーの弁当や普段はめったに食べないコンビニ弁当でしのいでいたが、作って食べるのは大事なことだ。と晩飯を食べて思った。コンロを使ったせいか部屋の中が暑くなった。

騒ぎ出す季節

 駐車場から道路に出る1m程のスロープに、数日前からとかげが変な格好でオダブツしている。なんでそんな恰好で、と不思議に思うが、住人に何かされたようにも思えず、気になりながらもそのままにしている。アリが何とかするには大きすぎるが、かわりに何となくミイラになりつつある。夏のさなかに往く生き物がいる一方で、バイクにかけたレインコートに小さいヤモリが隠れるのを見かけた。これからまだ大きくなるのだろう。
 先日のこと、夜中に帰宅したときに階段で仰向けになっていたセミが朝もそのままになっていたので、羽を持ちあげたところブウーンと飛び立っていった。カナブンが時々ひっくり返って戻れなくなっていることがあるが、あのセミは一体夜中の間仰向けのままどうしていたんだろうと考えるがよく分からない。職場では、どこから入って来たのか分からないが、仕事に使う道具の陰にあまり大きくないバッタがつかまっていたから外に出した。駅のエレベーターにもバッタがつかまっていて、外まで連れて行ったことがある。バッタも勢いよく飛んでいくもんだ。
 そんな風にいなかは生き物たちの暮らしとの境界線があいまいに感じるが、町屋に住んでいたときには京成線の車中でカミキリムシみたいなのが服にとまってきたことがあった。虫は飛べるから、どこにでも入ってきてしまうのだ。しかし、こんなにも虫がそこらにいるのは、やはり街ではないからだろう。近所の川沿いの通勤路は雑草が伸び放題で、標識がすっかり見えなくなってしまった。夏はそんな季節だ。

後回しにしていたことをする

 齢を重ねる毎に何かを忘れたり失くしたりすることが増えてきた。この間は途中下車した名古屋駅で新幹線の切符を取り忘れて、翌日乗車する時に気付いて改札口や拾得物窓口やみどりの窓口でかなり時間を取られた。それでも結局見つからず、再度乗車券を買ったのだが、数日後に切符が見つかったと連絡があり、購入金額を返金してもらうことになった。名古屋は3回しか行ったことがなくて3回とも特に観光もせず、地理もよく分からず人を特に親切だと思うこともなかったが、駅の人は大分親切で少し印象がかわった。あれだけ時間をかけて見つからなかった切符がどこで見つかったのか気になるが、それもその内忘れるだろう。
 休みの今日は切符代返金の手続きのため、再購入の切符を郵便局へ持って行こうと準備して、ついでにスマートフォンのSIMカードの返送もすることにした。前に使っていた画面割れのスマートフォンがいよいよ使えなくなり、去年の秋に新しいスマホを購入したが、一つの契約で2つの回線を維持している状態で、月額が安いとはいえムダ金を支払って数か月が過ぎて行った。つくづく間抜けなことだが、そういうことに無頓着なところがある。やり忘れていたことをこの際ついでにやっておこう、と返送の手続きをするためにいろいろ書類を探したり電話で確認したりしてこれも大分時間がかかった。
 雨の合間の曇り空の下郵便局に行き、2つの郵便物を出し、スーパーに行った。ふと、2年前の夏に鹿児島に竹やぶ刈りに行った時のことを思い出した。あの時はバテないようにと、毎日のようにホテルの自転車を借りて約2km離れたところにあるだだっ広い駐車場のあるだだっ広いスーパーに行き、弁当やらいろいろ買いに行っていたものだった。そんなことを思い返しながら、バテないようにとレバニラ炒めを買った。

時々思い出す

 夜はまだ肌寒く、10年くらい前に買ったジャケットをよく着ていたが、いつも同じだと飽きるので大学3年の頃に買ったEDITIONの上着(あの頃はまだ独立した店舗ではなかった)を何度か着た。作りが少し大きめだったため敬遠して余り着ていなかったが、こうして時々引っ張り出してみると却って新鮮な気持で着られる。案外いけるわい、と思って少しいい気分になっていると、ボタンが一つついていないのに気付いた。それでボタンがなくなったのも着なくなった原因の一つだったのを思い出した。
 そんな5月も間もなく終わる。今日は夕方外出して夜帰るまで、シャツ一枚で平気だった。やっと使い慣れてきた広島駅の改札が新しくなっており、駅員が何人も案内係で構内に立っていた。帰宅してから洗濯物を取り込み、めったにないことだが放置せず片付けた。家の中で蚊に刺された。もうそんな季節だ。

落ち着かない天気で春になる

 新しい楽器が家に届いてスペースを作らないといけなくなり、少しだけものを片付けた。引っ越してきてからゴミ捨てのルールが違っていて何をどうしたら良いのか分からずに1年を過ごしてきた。市役所のホームページで調べてもよく分からないので、ゴミの担当課に電話で尋ねてみたら丁寧に教えてくれた。ゴミの収集所が市街地から離れている所にあって、都内では粗大ゴミ扱いになっていたものも持ち込めば無料で回収している、ということだった。車を使う暮らしにあった仕組みだと合点がいった。電池や電球も別の収集所で回収しているということだった。
 電話の後も別の用事に取り掛かっていたが、春になって暖かくなったことだからとふと思い立ち、さっき教えてもらった収集所へ原付で不用品を持って行くことにして、適当に支度をして出かけた。もう夕方だったが原付で走っても寒くはなかった。困ったのは行き方を調べた道路が工事中で通れなかったことだ。工事現場の当番のおじさんに道を聞き、時々自分でも道を調べながら辿り着いたときには受付時間を過ぎていたが、お詫びすると受け取ってくれた。こうして用事を済ませた頃には帰宅する車が多く、交差点は込み合っていた。スーパーに寄って食材を買って帰った。ぼやぼや過ごしてどうしたらよいか分からないで置いておくことがよくあるが、何でも聞いてみると分かることがあるのだ。原付で外出できる暖かさの昨日とうってかわって、今日は雪が降った。冬はいつの間にか何処かへ往き、春がまたやって来る。

チ・チ・チ・チェンジズ

 美容院の人に「スタイリングがしやすくなる」と言われ、その気になって学生の頃以来久し振りにパーマをあててもらった。おっさんになった今、思うのは父もずっとパーマだったことだ。
 カットの終わった自分の頭を美容院の鏡で見たら、ザ・フーでデビューした頃のロジャーダルトリーみたいなくるくる頭だった。齢にあわない印象に若干たまげつつ、パーマをかけたときはこんなもんだったかも知れないと思い返しもし、幾らか愉快な気持ちになってまた職場に戻って雑務を片付け、夜中にラーメン屋でいろいろ飲み食いして帰った。
 帰宅して鏡を見て、こういう人いるよな、と漠然と思っていたのが藤子不二雄のマンガの小池さんだったのだと合点がいった。そうだ。小池さんだ。これはスタイリングで何とかするしかない。モダンなイメージを思い描いていたのにギャグみたいな頭になったものだ。そんな啓蟄の頃だ。広島の山の盆地に引っ越して丸一年経った。

一年を振り返ってあれこれ語る

■アルバム
1. ザ・なつやすみバンド / PHANTASIA
 最初に聴いたとき、新鮮さと音楽的なチャレンジという全2作の良い部分が結実したアルバムだと感じました。音楽作品を賞賛する言葉はいろいろありますが、このアルバムを言い表すのにどんな表現も大げさでうまくあてはまらないように思ってしまいます。それは素敵な演奏と歌で築かれたこの作品に寄り添う瑞々しさに決まり文句が似合わないからかも知れません。ごく個人的な印象になってしまいますが、多分これからも忘れられない一枚になるような気がします。
2. TAMTAM / newpoesy
 名前だけ知っていたバンドで、音楽ニュースサイトで見た全曲紹介の短い動画が耳に残り、待ち望んで買って聴いた一枚です。それまでに聴いたことのないタイプの音楽がとても新鮮で、ステッパーズというリズムに独特の勢いがあり、何より馴染みのないスタイルでもしっかりと届いたのは歌の魅力が大きかったからかも知れません。新しい音楽って面白そうだな、と強く思うきっかけにもなりました。いろいろな変化を経て過去の曲は演奏しないと決めたということですが、そんな決心とメンバーの音楽に向かう楽しさが形になったアルバムなのかも知れません。
3. 片想い / QUIERO V.I.P.
4. 潮田雄一 / 水のない海
 ザ・なつやすみバンドの岡山公演の対バンで、サポートメンバーとして出演していたのを見るまでは全く知らない人でした。バンドのギタリストとしての活動と共に自身の弾き語りも行っており、このアルバムはフィンガーピッキングのギター演奏を主体として彩りのあるアレンジも交えた現代のフォーク作品となっています。英国フォークの良さを消化し、派手ではないがしっかりと立っている作家性に、「こんな人が今の日本にいたのか」と驚くばかりでした。
5. cero / Obscure Ride
 発売時に気になっていたものの、余りにも高い評価が世間に溢れているのに購入をためらっているうちに初回盤を逃して以降すれ違いになっていたバンドでした。Youtubeでライブ演奏を見るにつけ面白い音楽性に魅力を感じながらも、特に同じ男のバンドだから影響を受けてしまうんだろうなと心のどこかで避けていましたが、広島に来るというので遅ればせながら聴きました。ライブに興味を持ったのはmc.sirafuがサポートをしているのを知っていたからですが、秋のツアーからシラフ氏とあだちの二人は参加しておらず残念でした。
6. あだち麗三郎 / 6月のパルティータ
 ceroと同じように音源は入手しない代わりにYoutubeで”ベルリンブルー”は頻繁に見ていたものの、その独特な佇まいに何となく近寄りがたさを感じていたミュージシャンで、mc.sirafuと同じ片想いのメンバーでもあります。ceroのメンバーの荒内が”ベルリンブルー”の作曲者と知ったことがちゃんと聴くきっかけになりましたが、思っていたよりも耳に馴染む作品で、ドラマチックなロックマナーも漂っているのが意外なくらいでした。自分は訳もなく用心深いところがあるので「良いと思ったら聴いてみた方が良いのだな」と気付かされました。
7. ザ・なつやすみバンド / パラード
 聴き手の勝手な思いですが、昨年の発売時には1st”TNB!”のピアノ主体の演奏に期待が大きかったためギターの楽曲をすんなり受け止めることが出来ず、他の曲でも演奏が馴染んでいないように感じていました。それで聴き込んでいなかったせいか、大分前の作品のような気がしていた程です。しかし”PHANTASIA”のリリースツアーでこのアルバムから表題曲を始め何曲も演奏されるので聞き直し、良さをあらためて確認しました。聴き手は勝手なイメージで好みをえり分けてしまいますが、時間が経てば客観的に受け止められる、そんなところも音楽の面白いところです。
8. ふくろうず / だって、あたしたちエバーグリーン
 ふくろうずはドラムが脱けて以降ボーカル・ギター・ベースの3人でやってきましたが、やはりドラマーと一緒に作るものがダイナミックで良いと思います。リリースツアーには元メンバーの高城が参加していましたが、レコーディングには以前からサポートしている来来来チームの張江が携わっています。
9. モーモールルギャバン / PIRATES of Dr.PANTY
 アレンジは前作の流れで、キーとなるテーマとして「パンティ」を再び手にし、ユニークなビジュアル系とも言えるようなメイクと衣装でヘンタイの道を突き進む姿にメジャーデビューした頃のTシャツ時代を思い出して大丈夫かなと心配してしまうこともあります。しかしながらそうした定番のテーマや見た目の記号性だけで語るわけにはいかない、信頼できるバンドです。
10. 吉田ヨウヘイgroup / paradise lost, it begins
 TAMTAMのボーカルkuroが参加しているというので聴いてみました。西田修大というすごいギタリストがメンバーです。収録曲”サバービア”で「この路線の駅前はどこも似過ぎてる」「どの街でも判で押したような場所が繰り返す」と自分のいる場所について歌いながら、最後に「だけどさっき目が覚めた 君が道を 通り抜けると 空気が裂けて 木々がざわめく」と語られるある感情にはっとさせられます。
11. 森は生きている
 気になっていたバンドでしたが、知らない間に解散してしまっており、もし廃盤になってしまったら聴くことが出来なくなるんじゃないかとふと要らぬ心配をして直ぐ購入したものです。目当ては”日々の泡沫”でしたが、全体的には土臭さよりもほのかに感じさせる都市性が印象に残る作品でした。
 余談ですが、TAMTAMをはじめとしてこの15選の中にP-VINEのCDが4枚あるのに気付いて、 ニッチな洋ロック系の本を出版していた元ブルースインターアクションズということくらいしか知りませんでしたが、何か面白そうなところだと気になっています。
12. 優河 / TabiJi
 10月に行われたザ・なつやすみバンドの「ツアーファンタジア番外編」のゲストで知った若いシンガーで、歌の表現力が他の人と違うところに興味を惹かれました。「番外編」でMc.sirafuと一緒に演奏していた新曲も印象に残り、新作が楽しみです。
13. 湯川潮音 / セロファンの空
 この人の音源は今年初めて聴いたのですが、英国フォークとかサイケデリックの雰囲気を織り交ぜつつ清廉な歌声で聴かせるユニークな音楽性に驚くばかりです。
14. うつくしきひかり
 今年は”PHANTASIA”をきっかけになつやすみバンドの音楽にこれまで以上にのめりこもう、と聴けずにおいたこのアルバムをいざ探しても置いていませんでした(新宿のタワレコには2枚ありました…)。バンドとは違った資質がよく見えますが、この作品に関しては「ザ・なつやすみバンドとうつくしきひかり」というより”TNB!”と並べて聴くと面白いかも知れません。
15. HERON
 何を見ても「木漏れ日フォーク」という形容が目に入る英国フォーク作品ですが、言葉通り野外レコーディングで小鳥のさえずりなどが音源に残されています。フォーク好きにはたまらない一枚でした。

■楽曲
1. ザ・なつやすみバンド / ファンタジア
2. TAMTAM / 星雲ヒッチハイク
3. TAMTAM / CANADA
4. 潮田雄一 / 夢を見た
5. ザ・なつやすみバンド / Odyssey
6. ザ・なつやすみバンド / ラプソディー
 2作目の”パラード”収録曲です。中盤の民謡的なパートを経て、息急き立てる終盤の盛り上がりはライブのハイライトの一つでした。
7. ザ・なつやすみバンド / 蛍
8. ザ・なつやすみバンド / 森のゆくえ
9. あだち麗三郎 / ベルリンブルー
 これは多分名曲だと思います。ceroの楽曲は高城の手掛けているものが多いようですが、この曲の作者である荒内のスタイルが興味深いです。
10. 吉田ヨウヘイgroup / ユー・エフ・オー
11. ふくろうず / 春の王国
 ふくろうずは「春」を含む名前の曲がいくつかありますが、これはそんな春シリーズの名曲の一つです。ふくろうずは”砂漠の流刑地”の”ユニコーン”や”テレフォンNo.1″の”春の惑星”のように、アルバムの中に時々ロックバラードタイプの曲を収録していますが、ふくろうずの魅力の一つと思います。自分はそんなところに胸をうたれてしまいます。
12. 片想い / Party Kills Me
13. 優河 / 舟の上の約束
14. モーモールルギャバン / Dr.PANTY
15. モーモールルギャバン / モスコミュール・メルシー
16. 片想い / 感じ方
17. 森は生きている / 日々の泡沫
18. bonobos / 三月のプリズム
19. 片平里菜 / この涙を知らない
20. The Pentangle / Sovay

 一年の終わりに、聴いてきた音楽をアルバムと楽曲で振り返ってみたいと思います。環境の変化で自分の音楽の聴き方も変わり、以前と同じでなくなって大変なところもありましたが、特に今の時代の新しい作品に意識が向かうようになったのは良いことでしたし、収穫でもありました。そんな振り返りですが、どうしても暮らしの振り返りになって自分語りばかりになるのはご容赦下さい。

夏の日に街を行く

 5日の夜、仕事をバタバタと片付けて新幹線と在来線を乗り継ぎ、松江で一泊した。明朝、松江から1時間ほどかけて西へ向かい、宍道で乗り換えて木次駅で映画を見た。終戦間近で満州に渡った愛知の村の人たちと、戦後中国残留孤児の捜索に尽力した人物を描いた話だった。1時間に一本もない帰りの電車にぎりぎり間に合うか気になりながら、結局間に合わないことがわかったので終演前に次の電車に乗ることに決めて、会場を後にして昼食をとった。食堂のカウンターで隣に座っていたおじいさんといろいろ話したが、焼酎で酔っていたのと(同じ中国地方でそれほど違いはないはずだが)言葉の違いのせいか、内容が分からないことも多かった。時間まで、食堂のとなりのショッピングセンターの本屋で電車を待った。帰り、車窓から「宍道湖ボウル」というボーリング場の看板が目に入り、行きに日本海だと思っていた景色が湖だったのだと分かった。松江から岡山まで2時間以上かかり、岡山から新幹線で東京へ向かい、都内の妹夫婦宅に着いたのは夜10時頃だった。
 翌朝、タクシーに乗って3人でお寺の納骨堂へお参りに行った。東京に住んでいた時にはビル群など何とも思わなかったが、昼間の街中の空と車道から見える景色は新鮮で、まるで観光客のように外を眺め、時々写真を撮った。帰りのバスでカメラを忘れたのに気付き、自分一人お寺に戻っている間に妹にタクシー会社に確認してもらった。タクシーに忘れていたのが分かったが、乗っていた車はあちこち動き回っていて受け取るのに手間も費用もかかるため、翌日タクシー会社へ受け取りに行くことにした。そんなことがあって少し遅くなった昼食は、商店街の洋食屋でとった。麦酒を飲んだ義弟は自宅に戻り、残った二人で姉のプレゼントを買いに新宿へ行った。
 荒川区に住んでいた頃はもう新宿へ行くこともほとんどなくなっていて、南口はずいぶん長い間工事中で大通りに面して長いフェンスが立っていたという印象しかなかったが、話に聞いていたバスターミナルが完成して新しいルミネも出来て、一帯の様子は様変わりしていた。当たり前に行き来していた場所をそんな風に観光客のように眺めながら、妹が仕事で世話になったというので閉店する紀伊国屋書店に行った。上京後の最初の3年くらいの間よく行っていた本屋で、別れの挨拶を交わす店員と客の様子を見ながら、街をあてもなくうろついていた学生の頃を少し思い出していた。
 すっかりきれいになった南口の高架をくぐってFlagsに行き、妹は服を見に、自分はタワーレコードへ行くので別れた。フロア構成が変わってから新宿店に行くことはなくなっていたが、久しぶりの新宿店は他の都内の店舗とかわらず接客が朗らかだった。待ち合わせの江古田に行くのに時間があれば新江古田から歩いて行こうと考えていたが、目当てのものが店頭になかったので店員に出してもらうのに時間がかかり、地下の移動と新江古田から江古田駅までの距離を考えて山手線~西武線で行くことにした。
 東京を離れてほんの数か月ぶりで、暮らしていた時でも江古田まで頻繁に行くことはなかったのだから懐かしさを憶えるというと大げさだが、同じように特別に久しぶりという訳ではない友人たちと会うのは時間に関係なく特別な感じだった。おしどりで2時間ほど飲み食いし、その後北口のセイフー跡地を確認してシャノアールへ行き、また飲み食いして22時に店を出た。友人たちと順番に別れてまた妹夫婦の家に戻った。夫婦はオリンピックとカープの結果を報じるニュースのことで喧嘩をしていた。最近はそういうことが多いのだと言うので少し心配になるが、お互いに本当に話したいことが話せると良いのではないかと思いながら、夫婦間のことなので口出しはしないでおいた。
 休みの最終日の今日、タクシー会社にデジカメを取りに行った。在京中はまったく縁のなかった目黒の街は落ち着いた住宅街だった。帰り、どうするか考えながら地下鉄を乗り継いで馴染みの上野の雑貨屋に行って帽子とハンカチを買い、山手線で東京に向かって切符と駅弁を買って新幹線に乗った。帰り道はやり切れない。しかし段々と今暮らしている場所に近付きながら、名古屋の次が京都と知らせる車内放送に一瞬間違いかと勘違いしながら西へ向かっているうちに現実を受け入れ、やることを整理し、明日を段々と迎える準備をしているような心持だった。
 帰りの電車はさらに街を離れて山の中を走り、何もない景色がやるせなく、しかし着いたら降りて家に帰る。駅舎を降りる時に忘れものに気付いて改札の駅員に尋ねたが、当駅どまりの車両はもう回送で移動したあとだった。帰り道、こんなに忘れものが多いのはどうかしていると、自分の齢のせいかと考えながらやや早足で歩き、家路についた。こうして終えた短い休日は、たったの三日間だったが自分にとっては夏休みだったのだろう。

160806島根の山中を走るJR木次線のトロッコ列車
DSC_0490新宿駅南口の様子

梅雨明けして夏が来た

 有給を取って母と新幹線で九州へ向かい、墓参りをした。霊場には蜘蛛がたくさんいた。墓参りと掃除を終えるとタクシーに乗って高齢の祖母の見舞いに行った。寝たきりの日々だが、母が耳元に差し出したスマートフォンに「もしもし」と呼びかけ、ヘルパーさんの問いかけに前よりも楽しいと話し、以前よりも力強く僕の手を握っていた。モノレールの切符はQRコード読み取り式になっていた。
 日帰りで広島に戻ってから姉宅へおみやげと荷物を渡しに行き、マツダスタジアムで弁当を食べながら中日戦を観戦した。ほとんど見に行くことのない野球観戦で応援するカープが勝った試合はなかったが、この日はジョンソンの力投に打線が中々こたえられず歯がゆい場面もあったものの、9回裏の新井のホームランでサヨナラ勝ちし、スタンドを埋めた大勢の赤ヘルのファンが歓喜していた。
 翌日の午後、果物やコロッケを持たされてまた山間部の田舎町の自宅に戻った。梅雨明けした夏の日は夕方でもたまらない暑さで、しかし駅からは10分ほど歩かないといけない。日中は暑いが、今のところ冷房を付けたのは一度だけで、ベランダの窓を開けていると夜は暑さも気にならない。仕事で車に乗ることがあるからコーナリングも車線変更も下手くそだが何とか運転できるようになり、実家でも車を借りようとしたが車種が違うと慣れないから危ないと反対された。この頃は、何処へ行くわけでもないが車社会の環境に合わせて自分も車でも買って運転できるようにならんといかんかと思うようになっていたが、年とった親に運転してもらうばかりで、あらためてそんなことを考えた。実家のアップライトピアノを今住んでいる部屋に持って来たいが、その前に部屋の荷物をもう少し片付けないといけない。仕事しかない日々でも、暮らしを振り返るとやることがいろいろある。

160711火事のあった尾道の商店街

坂道を行き来する日々

 広島の田舎に引っ越して間もなく3ヶ月が経つ。4月以降はほどんど部屋の片付けを進めることもできず、寝て起きて仕事へ行ってまた帰って寝る日々だ。生活の中で今までの暮らしとの違いを感じることはいろいろあるが、一つ驚いたのはLPガス(プロパンガス)の料金の高いことだ。余り高いので、お湯を使うのを少し控えた。嬉しいのはレモンを使った食品がたくさんあることだ。広島はレモンの産地だから、地元ならではの良いところだ。
 そんなことの全ては1㎞四方の限られた生活圏の中で起こっている。金を使うことと言えば、日々の食費と光熱費の支払いくらいで、良いことには違いないが面白いこともない。家の近くを流れるきれいでも何でもない川の縁に、あたたかくなってから黄色い花が咲き誇っており、そんなわずかな春の景色を横目に毎朝自転車で通勤している。満員電車で通勤しなくても良いのは喜んで良いことだ。面白いことはないが、何かを蓄える時なのだ、と思うことにしよう。
 とにかく広島の田舎に引っ越してきても、仕事は面倒なことが多いのはかわらず、やることは同じだ。そんなことを思いながらただただ日々が過ぎて行くが、生活の場を変えるという選択をした時に考えていたこと、それは忘れないでおきたい。
 やりきれないことがある。好物のスジャータの赤ぶどうジュースがよく行くスーパーにはなく、中々買えないことだ。同じスジャータのアサイージュースはあるのだが、赤ブドウは置いていない。置いているスーパーは7時半で閉まってしまうから、だらだら仕事をしている今の毎日では間に合わないのだ。限られた時間の中で、もう少し手際よく仕事が出来るようになりたい。

鞆の浦の港 広島県福山市の鞆の浦